- 2014年11月21日、「水郷柳河(すいきょうやながわ)」が国指定名勝の答申を受けました。
- 文化財保護法では、有形文化財、無形文化財、民俗文化財、記念物、文化的景観、伝統的建造物群の6つの分類で日本の文化財を守っており、この中の記念物に分類されるのは、都城跡、城跡、庭園、旧宅などで、その中でも重要なものを国や地方自治体が名勝に指定することができるのです。
- 2014年時点で、福岡県には6つの国指定名勝があり、そのうちの2つが、実は柳川市にあります。いずれも沖端地区にある、立花氏庭園、戸島氏庭園です。柳川藩主立花邸 御花にある、昭和53年に名勝に指定された松濤園は、明治43年に14代立花寛治伯爵によって整えられた庭園で、中央の池庭に大小の島を配し、その周りを約280本の見事な黒松が囲みます。冬になると野鴨が飛来する優美な庭園で、平成23年には、松濤園を含む敷地全体が名勝に指定されています。
- 文政11(1828)年に作庭されたとみられる戸島氏庭園は、池の護岸を石で囲み、中央に沢渡石を配した小さいながらも趣のある庭園で、隣接する旧戸島家住宅の縁側から眺めるその庭には、ゆったりとした時間が流れます。
- この2つの庭園は、掘割の水を庭に引き入れる潮入庭で、この地方独特の作りとなっています。
- 水郷柳河(すいきょうやながわ)という呼び方は、柳川出身の日本を代表する詩人、北原白秋の遺作となった『水の構図』の中で表現した言葉。柳川沖端にある、海産物問屋に生まれ育った白秋は、成長するにつれ、どんどん文学の道にのめり込みます。中学伝習館では友人達と決めた雅号をつけ、ここから白秋としての活動が始まりました。19歳の頃に起きた、将来一緒の文学の道に進もうと近いあった友人、白雨の死をきっかけに、さらに文学の道への思いを強くした白秋は、父親の猛反対を押し切り上京します。
- 上京後、早稲田大学に入学しましたが、あまり学校には通わず、作品を作り続けました。当時、詩や短歌の世界をリードしていた多くの文壇達とも交流し、白秋は頭角をあらわしていきます。24歳の頃には初の詩集「邪宗門」を出版し、注目を浴びます。そんな中、実家が倒産し、故郷柳河に居場所がなくなることを悩みながら、26歳の頃「思い出」を出版。故郷柳河への思いを詠ったものでした。28歳の頃には、破産整理を終えた一家は白秋の元へ身を寄せます。とうとう、故郷柳河への居場所がなくなってしまったのです。そうして、柳川へ帰りたくても帰れない状況に、白秋の故郷への思いは増していきました。
- 43歳の頃、大阪の朝日新聞の計画で芸術飛行が計画され、約20年ぶりに柳川の地へ降り立ちました。白秋の不安とはうらはらに、地元沖端の人びとは日の丸を掲げて白秋の帰郷を熱烈に歓迎しました。つくづく還って良かったと思った白秋はその後も、帰郷の昔を懐かしむ歌を200余り書きあげました。晩年、病気のため視力を失っていった白秋。そんな中、思い出されるのは生まれ育った故郷柳河の情景でした。
- 水郷柳河こそは、我が生れの里である。
- この水の柳河こそは、我が詩歌の母体である。
- この水の構図この地相にして、はじめて我が体は生じ、我が風はなった。
- 愛弟子の田中善徳が写真を撮り、それに白秋が文を添えた「水の構図」は、故郷柳河に対する白秋の思いが詰まった遺作です。
- 柳川をこよなく愛した白秋が、慣れ親しんだゆかりの地や、掘割の景観を含めた約18万4000㎡が、北原白秋の詩歌を育んだ「水郷柳河」として国の名勝指定を受けます。
- 太鼓橋 欄干橋を渡るとき 幼子吾は 足あげ勢びし
- 三柱宮 水照繁なる石段に 瑠璃の小蟹 ささと音あり
- 三柱神社やその欄干橋、さらに欄干橋の横に建っていた懐月楼は白秋がよく通った場所でした。
- 水のべは 柳しだるる橋いくつ 舟くぐらせて 涼しかりにし
- ついかがむ 乙の女童 影揺れて まだ寝起きらし 朝の汲水場に
- まだ川下りが観光として始まっていない時代にも、柳川の掘割は遊びの場として、生活の一部として、交通手段の一つとして欠かせない場所でした。
- 柳川城の城郭を囲んでいた外堀や内堀は川下りコースとなり、現在の柳川の観光の要に。白秋が沖端から中学伝習館まで通った掘割沿いの道は、白秋道路と呼ばれ、地元の人びとの散歩コースとして親しまれています。100年以上の歴史と趣を保つ並倉は、柳川を代表する景観のひとつ。沖端水天宮の舟舞台で奉納される「お囃子」は、白秋の幼少時代の思い出そのままに、現在も伝統の音色を響かせます。
柳川おでかけWeb
表紙スライドショーの写真のご紹介
3月・弥生
柳川の春のイベントも真っ盛り。
名勝に指定される北原白秋生家・記念館/三柱神社の欄干橋や懐月楼も白秋が詩歌に詠んだゆかりの場所です/三柱神社の正参道では毎年恒例となった流鏑馬の神事が行われます。/暖かくなったきた陽気に掘割沿いにも花が咲き乱れます/さげもんめぐりの中ごろに行われるおひな様水上パレードはたくさんの人で賑わいます/さげもんめぐりの期間中は白秋生家にも見事なさげもんが飾られます/よく見ていくと、さげもんの中には個性豊かなさげものも/日吉神社で行われるおひな様里親探しの光景